以下は私の演習に所属し、歴史学(日本史)で卒論を書こうとしている学生を念頭に置いておりますが、他の分野でも応用は可能だと思います。適宜ご活用いただければ幸いです。
1.まず押さえてもらいたいこと
史料と研究文献の違い
- 佐々木健一『論文ゼミナール』(2014年、東京大学出版会)で、論文のモラルに関する章で「テクストと参考文献」の区別が述べられている。この区別は「論文を書くうえで最も基礎的なもの」であるとされる。「テクストというのは、研究の対象になる著作や作品のことであり、参考文献とは、それについて既に書かれている先行研究のこと」である。さらに「研究の対象となるテクストと、それについてのひとつの「意見」である参考文献とを区別できない、ということは、書こうとしている論文というものの性質を間違えて考えている恐れが大いにあります」とも述べられている(p.110-111)。
- 歴史学において、この区別は全く同じとはいえないかもしれないが、基本的にはテクスト=史料(歴史資料)、参考文献=先行研究(研究文献)と置き換えられよう。
- 歴史研究における「史料」とは、対象となる過去の時代に作成された記録、執筆された著作のことをいう。
- 研究文献は、他の研究者が史料を使って歴史の発展を述べた論文、研究書のことをいう。(一般向けに書かれた〇〇新書は、博士論文の成果などをたんにわかりやすく書き直した場合があり、通常は含めないのがよいが、参考文献が豊富だったり脚注が付いている書き下ろしの新書も増えており、一概に言えなくなってきている)
- 『世界大百科事典』(平凡社)の「史料学」の項(執筆は二宮宏之氏)で「何が史料となりうるかは,歴史家がいかなる問いを発するかによって決まるのであり,問いに先立って既成の史料が存在するのではない」と述べられているように、原理的に、この区別は客観的に決められるものではなく、論文の著者の判断によって決まる。
電子化された情報の位置づけ
- ネットで調べられる史料も研究文献も、日本に残っていて見ることができる全体からするとごく一部でしかない(図書館、博物館、文書館や現地調査の必要性)。
- 人文系の場合、無料で公開されている事典の情報は、現在店頭流通している最新の事典類より大幅に古い場合がある。
- 電子化された情報は最新と思いがちなので、それが何年の時点での情報なのか、その典拠は何か、絶えずチェックする習慣を身につけることが大事。
- この点については長尾「ジャパンサーチと歴史研究」『城西国際大学大学院紀要』第25号(2022年3月)を参照されたい。
2.データベースを使う
一案として、以下の手順で探索していくことが考えられる。
- まずネットで調べられそうな範囲の全体像をジャパンサーチで把握
- その後NDLサーチとCiNiiで研究文献を検索、PDFで手に入るものを入手して読み、先行研究の簡単な動向を把握
- 論文に掲載された資料がどこにあるか、まず国立国会図書館デジタルコレクションでどの程度探せるかを探してみる。
- それ以外のものについて、重要な文献を国立国会図書館オンラインで検索し、遠隔複写などで取り寄せて読む。
- 直接資料所蔵機関の調査が必要なものがあれば、長期休暇などを利用して調査へ。
ジャパンサーチ(https://jpsearch.go.jp/)
- 日本国内のデジタルアーカイブを横断検索できるサイト。国立国会図書館がシステムを運用。2020年正式公開。
- 研究文献にあたる図書・論文の情報、デジタル化済で閲覧できる史料、その他写真などのコンテンツが大量に検索可能である(国立国会図書館のデジタルコレクションと全国書誌が検索できる)。
- これまで個別に検索するしかなかったデータベース(国立公文書館のデジタルアーカイブや博物館のコレクションなど)が一気に検索できるので、史料探索の利便性が向上している。
- このテーマではどんな史料があるのか、あるいはどんな文献がありそうなのか、何から手をつけていいかわからないとき、そのおおまかな概要を把握するために有益である。
- 基本的な使い方については利用ガイドを参照。
国立国会図書館サーチ(https://ndlsearch.ndl.go.jp/)
- 国立国会図書館が提供する、国立国会図書館の蔵書(研究文献(図書・論文)、史料)+都道府県立、市立図書館の蔵書検索が可能なデータベース
- 2024年1月、国立国会図書館の蔵書検索・申込システムと統合して新しくなった。
- 研究文献の調査に役立つ。
- レファレンス情報(レファレンス協同データベース)の案内も探索のヒントになる。
CiNii Research(https://cir.nii.ac.jp/)
- アカデミックな情報源(学術文献:論文、科研費報告、博士論文等)を検索する際の基本データベース
- 2022年4月、学術論文検索のためのデータベースCiNii Articlesが統合された。
- PDFも検索可能(PDF限定で探すならJ-Stageという手もあり)
- 他大学の図書館蔵書を探す場合はCiNii Booksも併用→相互貸出依頼へ
国立国会図書館デジタルコレクション(https://dl.ndl.go.jp/)
- 国立国会図書館がデジタル化した蔵書を検索・閲覧するためのシステム
- インターネットから利用できるのは、著作権が切れているものや、絶版等で入手困難となっている資料なので、数十年前の図書がヒットするため史料となりそうな本の探索に有効
- 図書館・個人送信、館内限定公開の欄にチェックを入れることで、雑誌記事も目次だけなら検索可能である
- 2022年5月から登録利用者であれば、個人の端末で入手困難な絶版等資料(旧来の図書館送信対象資料にほぼ相当する)が閲覧可能になった。
- 2022年12月、インターフェースが変更となり、収録対象が大幅に拡大。さらに全文検索もできるようになって利便性が飛躍的に向上した。
- 2023年1月には、個人送信対象の資料もpdfへの出力後に印刷することが可能となるなど、どんどん便利になっている。
- 博士論文のデータなどは、序章の書き方の参考になるかもしれない。
次世代デジタルライブラリー(https://lab.ndl.go.jp/dl/)
- 国立国会図書館デジタルコレクション中のインターネット公開資料に対し、全文テキスト検索機能などを実装したもの
- ジャパンサーチで見つかっていなかった史料の落穂ひろい的な使い方もできるかもしれない。
ジャパンナレッジ
- 辞書・事典の統合データベース
- 国史大辞典などが検索できることから、人物、項目に関する概要+本当に基礎的な参考文献の把握に役立つ
さらにもっと調べたい場合
- 人文リンク集(https://rnavi.ndl.go.jp/humanities/jinbunlinks.php)…国立国会図書館作成
- レファレンス協同データベース(https://crd.ndl.go.jp/reference/)…全く同じ事例はないかもしれないけれど、調べる手順やツールの参考に
- アジア歴史資料センター(アジ歴)(https://www.jacar.go.jp/)…史料の検索に。国立公文書館、外務省外交史料館、防衛省防衛研究所の所蔵資料がヒット
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