大学の演習などの授業で日本近代史を学ぶ場合に一通り必要なノウハウについて記します(特に明治史中心に記載します)。

はじめに

2012年に復刊されています。

 ハンドブックとして中村隆英, 伊藤隆 編 『近代日本研究入門』増補版(東京大学出版会、1983)の「研究の手引き」は一通り知っておくと良いです。

 1990年代以降、史料の公開状況も全く変わっていますし、インターネットが普及してから色々な検索データベースやデジタルアーカイブが利用可能になっていますが、それらを網羅した包括的な研究ハンドブックは現時点でありません。そのため、上記の本の考え方を学んでおくことは今でも有効です。

1.基本事項や事件について調べる場合

索引も有効利用
しましょう。

 辞書・事典として、大部ですが国史大辞典編集委員会『国史大辞典』15巻(吉川弘文館、1979~1996年)佐藤能丸、宮地正人、桜井良樹編『明治時代史大辞典』全4巻(吉川弘文館、2011~2013年)は項目に参考文献が載っていますので役立ちます。

 大学図書館でジャパンナレッジに契約しているところでは、国史大辞典が使える可能性があります(ただし、一部の項目はウェブ版と紙版で違いがあるようです)。

 「辞典はどれでも一緒だろう」という考えは禁物です。もちろん客観性は志向しているのですが、視点によって見え方がガラッと変わるのが(良くも悪くも)歴史の特徴。辞書によって説明に力点を置いているポイントは一つ一つ違います。そのほか『日本史大事典』全7巻(平凡社、1992~1997年)は、ルビが多いので複雑な読み方の歴史用語・人名に馴染みがない初心者や留学生にお勧めできます。

 年表としては、岩波書店編集部『近代日本総合年表』第4版(岩波書店、2001年)吉川弘文館編集部『誰でも読める日本近代史年表』(吉川弘文館、2008年)あたりが情報量が多くて便利だと思います。

 その他制度、閣僚名簿や省庁の幹部などの基本的な人事の一覧、系図・組織変遷図等に関しては、吉川弘文館編集部『近代史必携』(吉川弘文館、2007年)伊藤隆、百瀬孝編『事典 昭和戦前期の日本』(吉川弘文館、1990年)はあると便利です。

2.人物を調べる場合

 まずは上記辞書を引いてみてください。そのほか由井正臣、臼井勝美、高村直助、鳥海靖編『日本近現代史人名辞典』(吉川弘文館、2001年)などの辞典もあります。

 著名な人物ならば、伝記が出ている可能性があります。吉川弘文館の人物叢書シリーズや、ミネルヴァ書房の日本評伝選シリーズはどちらもかなりの量があるので、押さえておきたいところです。そのほか、中公新書も、近現代の人物の評伝で研究史上必ず参照されるようなタイトルが多いです。

 余談ですが、私が学生時代には、卒論のテーマを選ぶなら、人物叢書、日本評伝選、中公新書で出てない人物をやるほうがよい、ということを先生や先輩方から言われました。学部生では太刀打ちできないからだと思います。

結構マイナーな人まで網羅しています。

 最近のものであれば、筒井清忠編『明治史講義』人物篇 (筑摩書房、2018年)が、主要な人物の研究史に触れています。人物の略歴を調べるなら秦郁彦編『日本近現代人物履歴事典』 第2版(東京大学出版会、2013年)が大変な労作ですので見てみるとよいでしょう。

 一般的な人名辞典以外に、文学や軍事、政治など、活動した分野が明確な場合、専門的な辞典を使うのが良いでしょう。

 近代日本社会運動史人物大事典編集委員会 編『近代日本社会運動史人物大事典』(日外アソシエーツ、1997年)とか、また、人物の説明というよりは関連文献をまとめたものですが、国立国会図書館参考書誌部編『近代日本政治関係人物文献目録 : 国立国会図書館所蔵』(国立国会図書館、1985年)も使えます。国立国会図書館のリサーチ・ナビ上でも検索できます。

索引に出ていない人の場合は、『日本歴史』に連載されている補遺も見ましょう。

 また、人物のなかには、昔(当時)は大変有名で新聞にも出てくるような人だったけれど、今日まったく無名になってしまった人もいます。そのような人を探す場合は、図書館などで古い『人事興信録』等を参照するのも手でしょう。

 伊藤隆、季武嘉也編『近現代日本人物史料情報辞典』全4巻(吉川弘文館、2004~2011年)は、略歴だけでなく、伝記や史料の所在(憲政資料室所蔵など)どのような史料にアクセス可能かがわかる貴重な情報源です。卒論などでは必ずお世話になる文献といえるでしょう。

3.あるテーマの研究動向をおさえる・論文を探す

 日本近代史にはメジャーなテーマとそうでもないテーマがありますが、大きな動向については、まず小風秀雅、松尾正人、鳥海靖編『日本近現代史研究事典』(東京堂出版、1999年)を参照することで、2000年頃までの主要研究動向はだいたい整理できるはずです。

 ただし、それ以降は当然各自でフォローする必要があります。小林和幸編『明治史講義』 テーマ編 (筑摩書房、2018年)などと併用が考えられます。また、日本史に限らず歴史学の基本ですが、史学会の『史学雑誌』各年5月号の「○○年の歴史学会の回顧と展望」いわゆる「回顧と展望」を集めてみていくことで、研究動向、主な研究者名などが頭に入ってきます。

 また、いわゆる講座モノ(複数の研究者による論文を時代別・テーマ別の巻に分けて編集したもの)の論文から研究動向を把握することも重要です。最新版の『岩波講座日本歴史』(岩波書店、2013~2015年)には各論のほか総説もついていますので、近年の学会で起きている研究潮流についても知ることが出来ます。

 テーマ別であれば、簑原俊洋、奈良岡聰智編『ハンドブック近代日本外交史』(ミネルヴァ書房、2016年)は、外交史を学ぶ人には参考になるはずです。

 古典的な研究の内容や評価を大まかに知るためには、保谷徹、加藤友康、加藤陽子、黒田日出男編『日本史文献事典』(弘文堂、2003年)が有用です。これは、日本史上の重要な研究文献(単行本)について、著者本人またはその分野の第一人者が簡潔な解説を載せたものです。付録として主な講座の収録論文なども載っていて重宝します。研究蓄積の厚い歴史の分野だからこそこういう本も求められるわけですが、もちろん、自分の分野の先行研究については、人の解説に頼らず、自分自身で実際に読むことが必須であることは言うまでもありません。

 おおよそのテーマが絞れたら、雑誌論文をCiNii Articlesなどで探します。全文がPDFのものはJ-Stageで探しても良いでしょう。国立国会図書館からコピー取り寄せも可能(ただし有料)なので、自分の大学図書館にないからといってすぐ諦めないこと。

 国立国会図書館は、納本制度があるので、日本国内で出版された著作物は基本的に納本されることになっています。ですから日本国内で発行された日本史の論文は、最後は国立国会図書館で探すということになるでしょう。

 国立国会図書館に遠隔複写(コピーの郵送)を頼む場合のやり方については、以下を参照してください(事前に利用者登録が必要です)。

4.史料集について

 歴史学研究会編『日本史史料』4巻・5巻(近代・現代)(岩波書店、1997年)が近現代史の理解に必要となる代表的な史料を納めています。が、これだけだと足りません。近現代の史料は膨大にあるからです。明治百年史叢書(原書房)シリーズ出版社による内容紹介)や、昭和戦前期が中心ですが『現代史資料』(みすず書房)出版社による内容紹介)も重要です。

 ネットでも国立国会図書館「史料に見る日本の近代」などの電子展示があります。憲政資料室所蔵でデジタル化されたものを見ることができます。政治史の基礎的な流れもわかります。

 思想史の史料集ですが加藤周一編『日本近代思想大系』(岩波書店)の各巻は充実しています。とくに別巻の解説は史料群ごとの簡便な解題となっており、必見です。

 また、基本的な史料群(『明治天皇紀』や『原敬日記』など)は活字で翻刻もされています。

 政治家の史料の残存状況となぜそうなっているのかの理由については佐々木隆「近代文書と政治史研究」石上英一編『日本の時代史30 歴史と素材』(吉川弘文館、2004年)所収を一読しておくと良いでしょう。我々は近現代でも史料の「偏り」から完全に逃れられていないのです。

5.基礎知識をつけたい

中公や講談社の通史は、現在文庫本にもなっています。

 いくつか定番の通史を読むと良いと思います。充実しているのは『日本の近代』全16巻(中央公論新社、1999~2001年)でしょうか。通史編が1~8巻、9~16巻がテーマ史となっています。

 そのほか、吉川弘文館の『日本の時代史』の近現代の部分、岩波新書の『シリーズ日本近現代史』全10巻講談社『日本の歴史』の近代部分、小学館『全集日本の歴史』の近代部分、『日本近代の歴史』6巻(吉川弘文館)などもあります。本文だけで無くそれぞれの参考文献を眺めて研究者の情報や論文などを調べると良いでしょう。

6.史料批判とその方法について考えるには

 中野目徹編『近代日本の思想をさぐる』(吉川弘文館、2018年)が、思想史を捉える上での様々な方法(技巧・規則というべきもの)を紹介しています。

 また、日本近代史研究会『近代史料研究』が個別事例の積み重ねのなかから、近代史料を扱う上での分析視角を提示しています。

 新聞・雑誌・映画などメディア史料の扱い方はメディア史研究会『メディア史研究』第39号などの各特集号を参照してください。

7.ネットも活用

 2000年代以降、近現代史の史料でネットで読めるようになっているものが飛躍的に増えました。そのなかで利用可能なものをいくつか挙げておきます。 ただし、利用にあたっては旧漢字が読めないと厳しい場合があります。

 新聞については図書館で契約しているDBに違いがあるので、注意が必要です。